P90とテラヘルツ波の真実|効果・研究事例・企業動向まで徹底解説

OlyLife 社の製品「Tera-P90」では、バイオ電磁気技術とテラヘルツエネルギーを併用することを特徴として打ち出しており、細胞の活性化や血流改善、代謝促進といった効果をうたっています。

公式説明によると、「テラヘルツ領域のエネルギーが体内の分子と共鳴して微細な作用を及ぼす」「細胞間相互作用を活性化する」などの表現も確認できます。ただし、これらは製品紹介上の主張であり、P90装置自体を対象とした独立した学術実験公開データは私の調査範囲では確認できません。

したがって、本記事では、テラヘルツ波そのものに関する研究を紹介し、可能性やリスクを踏まえながら、P90の主張と整合性を読み解く視点を提示します。

目次

テラヘルツ波とは?基礎的な性質と応用背景

画像引用:Canonニュースリリース「世界最高出力の小型テラヘルツデバイスを開発
セキュリティや6G通信などへの応用が期待」
より

周波数帯と波長

テラヘルツ波(THz)はおよそ 0.1〜10 THz の範囲、波長では約 3 mm から 30 µm 前後の電磁波域に位置します。赤外線とマイクロ波の間にあり、電波・光の両方の性質を併せ持つとされます。

生体との相互作用性

水分子や極性分子に対する吸収性が比較的高いため、生体組織において吸収・減衰しやすく、深部浸透性が限られる可能性があります。

また、非熱的効果(温度上昇を伴わない影響)と熱的効果(加熱作用)を切り分けて考える必要があると、多くのレビューで指摘されています。

参考文献:Effect of terahertz radiation on cells and cellular structuresCellular effects of terahertz waves

応用技術領域

テラヘルツ分光・イメージング分野は発展しており、物質識別、セキュリティスキャナー、非破壊検査、医用診断(がん組織の識別、皮膚や口腔の診断)などで応用が検討されています。

参考文献:A Review of Feasible Applications of THz Waves in Medical Diagnostics and TreatmentsTerahertz radiation and the skin: a review

代表的な実験・研究事例とその結果

以下はいくつか注目すべき実験報告です。研究条件と結果を交えて紹介します。

実験例 A:神経細胞(海馬由来ニューロン)への照射影響

ラットの海馬由来ニューロンを培養。周波数 0.12 THz(10 mW)および 0.157 THz(50 mW)で 10分~30分の照射を行い、細胞活性・アポトーシス(細胞死)を調べた。

結果

10 mW, 0.12 THz の場合、30分照射で細胞活性が低下し、アポトーシスが顕著に増加する傾向があった。50 mW, 0.157 THz 照射でもアポトーシス誘導が観察された。また、細胞のミトコンドリア損傷やリソソーム増加などの構造変化も確認された。

興味深い点は、照射強度(10 mW ↔ 50 mW)や時間(10分 vs 30分)によって活性変化の傾向が異なること。高強度では一時的ストレス応答で活性が上がるケースも観察されるとの報告もあります。

このように、神経細胞に対しては、照射条件次第でダメージを誘発する可能性が示唆されています。

参考文献:Biological responses to terahertz radiation with different power density in primary hippocampal neurons

つまり、テラヘルツ波は、弱く短ければ細胞を元気づけるが、強く長く当てると細胞が疲れて傷つく。

まるで水やりで植物が元気になる一方、水をかけすぎると根腐れしてしまうようなものと捉えられます。

実験例 B:神経系発現遺伝子への影響(神経細胞モデル)

Neuro-2A 細胞に対し 0.22 THz、25 mW、5分照射を実施。変性・遺伝子発現の影響を調査。

結果

照射後、突起数・突起長の低下が有意に観察され、神経形態(ニューロン突起構造)に影響があった。また、シナプス関連遺伝子 TUBB3 や SYP(突起成長・機能に関わる遺伝子)の発現が減少したという報告もある。

逆に、アポトーシス関連遺伝子 BAX/BCL2 には明確な差異は見られなかったとする報告で、影響範囲が限定的または条件依存的である可能性を示唆している。

参考文献:Advances of terahertz technology in neuroscience: Current status and a future perspective

つまり、テラヘルツ波を当てると、神経細胞の“枝”が伸びにくくなり、成長スイッチが弱まる。

まるで木の枝が育たずに短く止まってしまうような状態と表現することができる。

実験例 C:神経系以外・タンパク質・DNA 変化に関する報告

  • タンパク質変化:理研を中心とした研究では、テラヘルツ照射が生細胞中のアクチンフィラメント(細胞骨格タンパク質)に影響を与え、フィラメント構造の崩壊を引き起こすことを観察したとの発表があります(細胞死を伴わない段階での構造変化)。

参考文献:Terahertz radiation can disrupt proteins in living cells | ScienceDaily

  • DNA / 細胞応答:複数報告によれば、強パルス照射(0.1–1 μJ レベル)により、人工皮膚モデルで DNA 二本鎖損傷マーカー(γH2AX のリン酸化)増加や細胞周期制御因子の発現上昇が見られたという報告があります。たとえば、照射 10 分後には DNA 損傷応答の指標が上昇し、修復関連タンパク質も誘導されたという報告があります。

参考文献:Research progress in the effects of terahertz waves on biomacromolecules | Military Medical Research | Full Text

  • 細胞生存性・構造変化:0.5–100 THz を対象としたレビューでは、照射強度・時間・細胞・組織の種類により多様な応答があり、「細胞の生存性」「細胞膜構造」「細胞内水分挙動」などに影響を与える可能性が指摘されています。

参考文献:Effect of terahertz radiation on cells and cellular structures – PMC

  • 遺伝子発現変化:メタアナリシス研究では、さまざまな照射条件下での遺伝子発現変化パターンを集計し、THz 照射が特定の遺伝子発現を変動させる傾向を報告していますが、一貫性・再現性には限界があると述べられています。

参考文献:Non-Thermal Effects of Terahertz Radiation on Gene Expression: Systematic Review and Meta-Analysis

これらの研究事例から見えるのは、テラヘルツ照射が生体分子・細胞応答を変調しうる可能性は存在するという点ですが、その作用は非常に条件依存的であり、過度な一般化は危険ということです。

つまり、テラヘルツ波は細胞や遺伝子に“ちょっとした変化”を与える力を持つが、その影響は強さや時間次第で良くも悪くもなり、まだ安全性も効果も確立していないと表現できる。

実験に関するまとめ

テラヘルツ波は、細胞や遺伝子に弱い刺激を与える力を持ち、条件次第でプラスにもマイナスにも作用することが確認されています。

海外では神経細胞やDNAへの影響研究が進み、日本では非破壊検査や技術基盤開発が中心。
つまり「可能性はあるが、作用はまだ不安定で研究途上」というのが現状です。

なぜ「科学的根拠が乏しい」とされるか/限界点

上記のような報告があるにもかかわらず、テラヘルツ波の応用が“確立された治療法”として広く認められていない理由には、以下のような要因があります:

照射パラメータの制御・最適化が難しい

強度・時間・周波数・パルス/連続などの組み合わせが非常に多く、最適条件を定めた研究が十分ではないとされます。レビュー論文でも「再現性が乏しい」「実験プロトコルの統一がない」点が指摘されています。

生体深部・複雑組織での応答が未解明

多くの実験は培養細胞または動物モデルで行われており、人体内での複雑な環境(血流、組織密度、温度勾配など)を反映していないため、臨床適用への橋渡しが十分とは言えません。

安全性マージンの確立が不十分

細胞レベルでのアポトーシス誘導やDNA損傷などの報告が存在するため、「無害」と言える範囲の線量・時間が明確に定まっていないという見方が強いです。

テラヘルツ波を利用した企業の取り組み

テラヘルツ波は「光と電波の中間にある電磁波」で、物質を透過する性質や分子の動きをとらえる性質を持っています。

まだ研究途上ではありますが、すでに健康・産業・通信・食品・医療など多方面で活用を進める企業が存在します。

1. OlyLife – P90

  • 概要
    OlyLifeは「P90」という健康サポート機器を展開。テラヘルツ波と磁気(PEMF)を組み合わせた仕組みを特徴にしています。
  • 活かしている特徴
    テラヘルツ波が「体内の水分や分子活動」に作用する可能性を利用し、血流促進やリラックス効果をうたっています。
  • 主な効果の主張
    • 細胞を元気にする
    • 血流をよくする
    • 睡眠の質を高める
  • 特徴
    医療機器ではなくセルフケア用。口コミでは「体が温まる」「むくみが軽くなる」など体感ベースの声が多いです。

👉 身近なイメージ:電気毛布やホットパックのように「じんわり温まる」感覚を、波の力で応用している。

2. Tera.group

  • 概要
    世界的に事業を展開する企業で、テラヘルツ波を使った分析・センシング機器を開発。
  • 活かしている特徴
    テラヘルツ波の「分子ごとの指紋を読み取る力」と「水分子の動きをとらえる性質」を利用。
  • 用途
    • 農業:作物の水分量をリアルタイムで測定
    • 食品:品質や成分をチェック
    • 医療:血液や組織の状態を非侵襲で分析
  • 主張
    「テラヘルツ波は安全で、物質の個性を見分けられる」と説明。

👉 身近なイメージ:空港の手荷物検査のように「中身を壊さずに見る」技術。

3. TeraView(英国)

  • 概要
    世界初のテラヘルツ専門企業。装置メーカーとして実績多数。
  • 活かしている特徴
    • 透過性 → 塗装やバッテリー層を壊さずに測定
    • 吸収特性 → 薬の成分や均一性を調べる
  • 用途
    • 製薬:錠剤や薬のコーティングを非破壊でチェック
    • 自動車・EV:塗装や電極の厚みを測定
    • 半導体:チップ内部の欠陥を検査
  • 特徴
    非破壊・非接触を武器に、工場の品質管理に導入が進む。

👉 身近なイメージ:レントゲンのように「中身を見る」技術。ただし放射線ではなく安全な波を使っている。

4. Canon(日本)

画像引用:Canonより

  • 概要
    日本の大手メーカーもテラヘルツ技術を開発。
  • 活かしている特徴
    • 透過性 → 紙やプラスチックを透かして中身を確認
    • 小型化技術 → 半導体を応用し、体積1/1000・出力10倍の発生器を実現
  • 用途
    • 非破壊検査
    • 物質識別
    • 将来的には6G通信にも応用

👉 身近なイメージ:「透かし見カメラ」を手のひらサイズにしたような道具。

テラヘルツの課題

テラヘルツ波は、物質を透過したり分子の振動をとらえたりする特性から、多くの可能性が期待されています。

しかし、研究としてはまだ発展途上であり、特に「健康効果」に関しては十分な科学的根拠が揃っているとは言えません。

そのため、テラヘルツ波を利用した健康器具や美容製品に関しては、以下の点に注意が必要です。

  • 科学的根拠の不足:細胞や分子に影響を与える研究報告はあるものの、人体への直接的な効果は明確になっていない。
  • 特許の有無・内容:製品が「特許取得済み」と記載している場合もありますが、その多くは「波の発生方法」「デバイス構造」に関する技術特許であり、効果そのものを保証するものではない。
  • 誇大広告のリスク:科学的実証が不十分な段階で「健康効果」を強調しすぎると、誤解を招く可能性がある。

P90とテラヘルツの関係

本記事では、テラヘルツ波の基礎、研究事例、そして世界の企業動向を紹介してきました。OlyLife社の「Tera-P90」は、バイオ電磁気技術とテラヘルツ波を組み合わせ、「細胞の活性化」「血流改善」「代謝促進」といった効果を主張しています。

一方で、学術研究においては、テラヘルツ波が細胞や遺伝子に影響を与える可能性が報告されているものの、その作用は条件に大きく依存し、まだ人体レベルで明確に効果や安全性が実証されているわけではありません

つまり、P90は「テラヘルツ波の潜在的な可能性」を健康・リラクゼーション分野に応用した一例と位置づけられます。

ユーザーがP90を検討する際には、「体感ベースの口コミ」と「科学的に確認されている範囲」とを切り分けて理解することが大切です。

まとめ

P90は、テラヘルツ波を健康分野に取り入れた実用的な試みであり、未来の科学的解明を先取りする形で登場した製品といえます。

ただし現時点では、利用者自身が「セルフケア器具として楽しむもの」として受け止めつつ、科学的な検証結果を注視していくことが望ましいでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次